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感じる事の出来ないモノ

−1−

 身体に異常を感じた時は手遅れだった。
 意識は朦朧とし、世界は大きく揺れていた。
 平衡感覚を失い、前後左右が分からない。
 力は抜けその場に崩れるように倒れた。
 床に倒れているはずなのにフワフワと宙に浮いている様な錯覚に襲われた。
 目の前の女達が笑っている。
 ベタベタとした気持ちの悪い微笑み。
 今にも舌なめずりをしそうだ。
 この後俺をどうするのか話しているみたいだが聞こえやしない・・・
 少しでも気を抜くと意識を手放しそうだ。
 力も入らない。
 自力では逃げられない。
 どうする?
 この状況を脱する為に出来る事はジャケットのポケットに入っている携帯で助けを呼ぶ事。
 携帯のアドレスの最初に登録されているヤツが誰だか分かっている。
 一度も俺からかけた事等ないが、呼べば必ず来るはずだ。
 俺自身も分からないこの場所をどんな手段を用いても割り出すだろう。
 この状況を打破するだけの行動力と実力を持っている。
 実感としてそれは知っている。
 だが、アイツに助けを求めるのは怖かった。
 子供の頃からずっと虐められ続けて来た所為でアイツと関わる事に身体が拒絶反応を起こす。
 迷っている場合ではないのは分かっているが素直に助けを呼ぶ気になれない。
 いっそこのままなるようになってみようかと無謀な考えが頭を過ぎる。
 飲まされた薬がなんなのかは知らない。
 媚薬かドラックか・・・そんなところだろう。
 女が俺を廻すのか?
 それとも女以外の生き物がバックで控えていて、俺の意識が無くなったら出てきたりするのだろうか?
 どちらにしても俺がレイプされるのは確実だな。
 ついでにビデオやカメラに撮られたりして後々強請られるかも知れない。
 俺の親権者は金を持っているが、俺自信は金を持っていない。
 強請りに応えられないだろうから稼ぎ先を斡旋されるかもな。
 マダムのペットか変態野郎の玩具か・・・
 はははっ!
 俺には案外似合いかも知れない。
 16年間愛とは無縁の人生だった。
 これからもきっと無縁なんだろう。
 人に愛される事も人を愛する事も出来る気がしない。
 温かい場所には行けない。
 なら、落ちるところまで落ちて泥水をすするのもいいかも知れない。
 こんな身体に興味も未練もない。
 好きにしたいヤツが好きにすればいい。
 閉じかけた目を開いて見た。
 目の前の女達はやっぱり笑っている。
 唇が妙に紅くて気持ち悪い。
 こんなヤツらの為に落ちるのはムカツクな。
 落ちるなら自分の意思で自分の為に落ちたい・・・


 最後に考えたのはそんな事だった。
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